江戸銀さんの「寿司」
お寿司についてお聞きしたいのですが、仕入れはどのようにされているのでしょうか?
店舗が多かったころは、父と市場に出向いて大量に買い付けていました。ただ、今は店舗数も絞っているので、大量に仕入れてストックを増やしてしまうと、ネタの鮮度が落ちてしまいます。そこで今は、古くからお付き合いのある鮮魚店さんにお願いして、その都度ネタを仕入れをしています。
鮮魚店さんとは頻繁にコミュニケーションを取るのですか?
もちろんです。そこはお互いにプロですから、毎日仕入れるたびに味見して、気になることは率直に伝えています。こちらからお願いするだけでなく、「こういうネタが入ったよ」と連絡をいただけるので、季節や仕入れの具合にあわせて調整したりして。
寿司屋にとって材料とシャリは命ですから、そこはこだわりを持って、信頼ある方とお付き合いしています。
お寿司の味付けの部分で大切にされているのはどこでしょうか?
ネタの鮮度はもちろんですが、シャリ(お米)と醤油の味付けにはこだわっています。お店でお出しするシャリと醤油の味は、先代が創業した60年前から変わっていません。先代が大切に守ってきた味を、私もしっかり守り続けたいと思っています。
鮮度や味をはじめ“生もの”を扱う奥深さを感じます
寿司の歴史を振り返ると、江戸前寿司(握り寿司の原型)は立ち食い寿司からはじまったそうです。昔は冷蔵庫もなく、ネタの鮮度を保つのが大変でした。そこで、さっと提供して食べられる立ち食い寿司が好まれたそうです。そこからお寿司は漬けを作ったり、穴子を炊いたり、塩で締めたり、昆布で締めたりと、さまざまな加工をして親しまれてきた歴史があります。
“生もの”を扱うからこそ、時代に応じて料理人が工夫をして歴史を紡いできたわけです。カウンターに冷蔵できる「ネタケース」が登場したのも昭和の初期になってからです。こうした歴史を知ってから寿司を食べてみると、また違った楽しみ方が生まれますよ。
ご主人もお寿司は大好物だとか
はい。子どものころから寿司は大好きで、今でも時間があれば知り合いのお店にすぐ足を運んでしまいます。妻と休みに食事に出かけるときも、寿司屋に行ってしまいます。以前東京に旅行に行ったときは、1泊2日の旅程で6軒の寿司屋を回りました。寿司以外の食事はホテルで食べた朝食だけ(笑)。もちろん寿司職人として勉強の意味もあるのですが、それ以上にお寿司が食べたい。それくらいお寿司が大好きですね。
1泊2日で6軒ですか!本当にお寿司が大好きなのですね
それだけお寿司が好きだからこそ、お客様にもおいしい寿司をお出ししたい。寿司のおいしさや魅力、奥深さをもっと知ってもらいたいと思っています。その“好き”という気持ちが、お客様に喜んでもらいたいという根源にあるように感じます。
よく一見さんのお客様から「どれくらい通えば常連ですか」と質問されるのですが、私は「2回目からはどなたでも常連です」とお答えしています。自分が大好きな寿司だからこそ、2回、3回とお店に足を運んで楽しんでいただきたい。その2回目、3回目に「来たい」と思っていただけるようにするのが、私たちお店が努力すべき部分だと思っています。そういった積み重ねが、お客様との信頼関係に結び付く。その積み重ねを大切にしていきたいですね。