四季通り商店街

恋史郎コーヒー「カルチャーに刺激を与えるお店でありたい」

恋史郎コーヒー「カルチャーに刺激を与えるお店でありたい」

今回は、宮崎市中心市街地にある四季通り商店街にお店を構える「恋史郎コーヒー」さんへ取材に伺ってきました。
恋史郎コーヒーさんは、通りに面している店内がガラス窓で区切られていることもあり、はじめての来店される方でも入りやすいお店です。
店内に入ればコーヒーのいい香りがする落ち着いた雰囲気に、つい時間も忘れてリラックスできるコーヒー屋さんです。
取材を通して、お店やコーヒーについてのこだわりや、オーナーの田中さんの想いなど、さまざまなお話をお伺いすることができました。

恋史郎コーヒーさんの「歴史」

四季通り商店街にお店を構えられたのはなぜですか?

四季通り商店街でお店をやりたいと思っていたので、かなりこだわって物件を探していました。
四季通り商店街でなかったら、少し離れたところでお店を出そうと思っていたくらいです。

そこまで四季通り商店街にこだわった理由とはなんでしょう?

中学生の頃から、洋服がすごく好きだったんです。
その中でも人生で1番刺激を受けた洋服屋さんが当時、このお店のすぐ前の場所にありました。

TOKIWA24ビルに入っているテナントのうち1軒がレコード屋で、あとはほぼすべて洋服屋でした。
その洋服屋のほとんどがTYPEというブランドのお店で、TYPEのビルみたいになっていたんですよね。

大学生になっても、就職しても、しばらくずっと四季通り商店街のお店に通っていました。
それでこの商店街がいいと思っていたので、四季通り商店街以外は見ていないんです。
そのくらい思い入れがある商店街でした。

恋史郎コーヒーさんの「コーヒーへの想い」

四季通り商店街で、お洋服屋さんではなくコーヒー屋さんを開こうと思ったきっかけを教えて下さい

実を言うと、そもそもコーヒーが好きじゃなかったんですよ(笑)
コーヒーを飲み始めるようになったのは24、25歳くらいからです。
それまでは、コーヒーの苦さにあまり良さを見いだせなかったんですね。

僕は宮崎県串間市出身なんですけど、24歳の時に、当時串間市に日の出コーヒーというカフェがあったんです。
そのお店で飲んだエチオピアの豆を使ったコーヒーが、浅煎りのコーヒーでした。
それがこれまでの概念を覆される味で、衝撃を受けたのを覚えています。

それまでは、浅煎りと言われる素材の味にフォーカスしたフルーティーなコーヒーがなかったんです。
深煎りのいわゆる苦いコーヒーが苦手な方でも、飲みやすいようなものを提案したいなと思って、お店を作りました。

コーヒーを入れる写真

こだわりの根本にあるのは、浅煎りコーヒーなんですね

当店のコンセプトの話になるんですけど、飲み物や食べ物に限らず世の中の概念の中心にある考え、解釈が、本質からずれているという場合があると思っています。

コーヒーはすごく顕著に出ている例で、コーヒーのイメージというと「深煎りの苦さのある飲み物」だと思いますが、実は素材の味からするとそのイメージ自体がすごく外れたところにあるんです。

加熱をするという意味合いで言うと、例えばとても良いお肉を食べるとします。
良いレストランだとその場でお肉を焼いてくれますが、それを焦げた状態で出されたら嫌じゃないですか。
「焦げてしまったら嫌だ」と思う理由は、みなさんがどのくらい加熱をしたら良いお肉がちゃんと美味しく食べられるかを知っているからなんです。

そしてコーヒーに比べて畜産などは、生産者と消費者の距離が近いので、素材の美味しい食べ方や、生産者のこだわりが興味として見やすいですよね。
それが知識になっていって、「焦げてしまうと美味しさが損なわれるから嫌だな」と思うことができるんです。

宮崎県だと特にそうですね!畜産に関する特集など、テレビで放送されているから子供でも知っていたりしますよね。

ところがコーヒーにはそういうものがないんですよ。
戦後ちょっと経ってから、ずっと深煎りのコーヒーが主流なんです。

この理由はすごく簡単で、コーヒーの豆は遠い国の生産物ですよね。
それを飲むために輸入するのですが、当時は輸送の技術が今ほどないので、すごく質の良い豆でも日本に届くときにはすでに劣化してしまっているんです。
さらにもっと前の段階で、生産国の管理がきちんとされていないことも多かったです。

さっきのお肉の例で言うと、少し前からどこの会社が、誰が、生産したかというのが記載され、分かるようになりましたよね。
そういった※トレーサビリティという考え方が、コーヒーの業界で重要視されはじめたのが、比較的最近の話しなのです。

※トレーサビリティ:その商品や製品を、いつ、誰が、どこで作ったかが追跡できるようにした状態のこと。

どの業界にも昔から、最高のクオリティーの豆を生産している人もいれば、質より量を重視する人もいます。
その豆を一緒にまとめられて出荷されると、コーヒーの豆のクオリティが上がらずレベルが均一化してしまうんですよね。

そういう事情と、輸送の問題も相まって、深く焼かざるを得なかったんです。
深煎り以外の選択肢がない状態の豆が届くんですから。

素材の味を楽しむなら浅煎りが一番感じられるということですね。

そうですね。
浅く焼くということは、良い素材に火を入れないということで、つまり素材の味がいいから火を入れないという選択ができます。

浅煎りのコーヒーも飲めるようになったのは、そういった問題をクリアしてきたからということですね

今はトレーサビリティが明確化されてきましたから、この国のこの人が作っている豆はとても質がいい、という判断材料の一つにできるようになっています。

さらに、スペシャリティコーヒーという概念も、今から30年ぐらい前にアメリカで生まれました。
これはコーヒーのグレードのことを指していて、スペシャリティコーヒーはトップグレードです。

歴史を話すと、昔、世界的なコーヒー価格の暴落があり、コーヒーの生産から手を引く人が数多く出てきたんです。
その手を引いた人たちは、ほとんどが頑張って質の良いものを生産している人たちでした。

そもそも管理がずさんだったので、どんなに頑張っていいもの作ってもまとめて出荷されて、挙げ句の果てにはその生産費用が売値を上回って大赤字になってしまう状態が続いていたようです。

そういう状態を打開するために、いい生産者はちゃんとピックアップされて、いいものが流通して、コーヒーの本質的な味をみんなに知ってもらう必要がありました。
そういう背景もあってできた概念とそのグレード、位置付けなんです。

実は私(インタビュアー)浅煎りのコーヒーの酸味が苦手なのですが、飲めるようになりますか?

何も情報がない状態で浅煎りのコーヒーを飲むと、「酸っぱい」になっちゃうんですね。

すごく深煎りのコーヒーを抽出して長く置く、もしくは豆の状態で長く置かれたものを抽出すると、酸化してる味が出るんです。
その酸味は、嫌味のある酸っぱさ、刺激のある酸っぱさになるんですよ。

その酸味と、浅煎りのコーヒーの酸味がリンクしてしまって、「この酸っぱさは美味しくない時のあの酸だ」となってしまうんです。
説明なしだとどうしてもそうなってしまうので、話せる人にはちょっとの時間でも話をするようにしています。

うちは試飲を出しているんですが、浅煎りものは熱い時と冷めた時で味が違うんですよ。
違うんだけど、冷め切ってしまったら、それから1日置いても味はほとんど変わらないんです。

コーヒーが酸化する要素が少ないようにしているからなんです。

コーヒーが酸化する要素とはなんでしょうか?

そもそもコーヒーが酸化する原因は、ほとんどの場合が油なんですよ。
コーヒーの豆もいわゆる植物の種なので、種というものは中に油を持っています。

テカリのあるコーヒー豆を見たことがあると思うのですが、あれは深く焼くことにより種が持っていた油が外側に滲み出て、それがテカリになっている状態です。

油は酸化していくものだということを皆さん知っていらっしゃると思います。
コーヒーの酸化の要素は空気です。

ですので豆は、買っていただいた時の状態が良くても、浅煎りと深煎りとではもう寿命が全然違うんです。

深煎りは、とにかく早く飲んでほしい。
当店の深煎りは油はほとんど滲み出てないので、豆の持ちが違います。

あまり好きじゃなかったコーヒーのことをここまで研究できたのは、どうしてでしょうか?

性格でしょうか、物事を掘り下げることが好きなんです(笑)
コーヒー屋さんで働くみたいな修行もしていないんですよ。

独学ということですか!?すごい!

今もお世話になっている先輩がいて、その方は自分が知り得ない情報を持っていらっしゃるので、情報をもらったりとかはします。
しかし基本的に、先程お話しした内容などはほぼ独学です。

どうやって勉強されたんですか?

すべては味なので、それに関してはとにかくたくさんコーヒーを淹れることをしていました。
むしろそれしかないと言いますか。
理論に関しては本を読むとかいろいろありますが、基本は自分で考えることを大事にしていました。

どの分野でも一つのことを突き詰めてる人でも、分野が変わると固定の概念っていうのが生まれて、本質と少しズレた解釈になってしまうことがあると思うんです。

でも僕は固定概念にとらわれず思考のストッパーを外して、「なぜこの味はこういう風に出てる?」「こういう場合、この味で抽出されるのはなぜなのか?」などのロジックを紐解いていけました。

2018年から自家焙煎を始められていますが、きっかけはなんだったのでしょう?

もともと、お店を出すときから考えていました。
ですのでコーヒー豆の焙煎機のオーダー自体は最初からしていました。

焙煎機が間に合わないというのもあるし、最初から焙煎をするにはコーヒーの味的なリスクがあったので、最初の頃は熊本県や福岡県のコーヒーショップと豆の取引をしていました。

それに元々焙煎機を置く予定だった場所が、ちょっと煙突を抜くのが厳しいかもしれないなど問題があったのですが、お隣のお店が移転されるとのことだったので、そこを借りて、今は隣の部屋に焙煎機を置いています。

コーヒー豆の焙煎機が見えるお店に行ったことがありますか?

あります!

これは結果論なんですけど、当店は別の部屋でよかったなと思ってます(笑)

それは、どうしてですか?

コーヒー豆を挽いた時に粉が舞うんですよ

あっ、コーヒーの粉が?

そうです(笑)
もっと広いとこだったら良いと思うんですけどね。

コーヒーの粉はかなり舞うんですか?

舞うというほどでもないんですけど、生の豆の中には粉っぽいものもあるんですよ。
薄皮みたいのがまとわりついていて、袋詰めされる前の段階から豆と豆がこすれてしまって、粉塵みたいになっちゃうんですよね。

その流れで、隣が空くのを待って入れたという感じです。

自家焙煎を始めるタイミングとしてはちょうどいいときだったんでしょうか?

バッチリかどうかは分からないですけど、でも正直、焙煎はこの1年ぐらいでやっと納得が行くかなって感じです。
いや、今年(取材時2022年)に入ってからって言ってもいいぐらいです(笑)

恋史郎コーヒー オーナーの田中さん

やっと思い描くコーヒーにたどり着いた感じでしょうか

うーん、まだそこまでじゃないですけどね。

もっと良いコーヒーになるということですか?

もっとよくなります。

例えばエチオピアのウォッシュドという豆は、もう僕がこの世界に入るきっかけになったコーヒーなので、思い入れがあるんですよね。

豆によってもちろんニュアンスは変わるのですが、エチオピアのウォッシュドだったら絶対この感じ、この豆だったらこのニュアンスは絶対来る、っていうのがあって、それを焙煎のどの段階で引き出せるのか。
それが出来ていなかったとしたら、どこで引き出せていないのか。

その原因は、ちょっと難しいんですけど、阻害要因を作っている場合があるのと、阻害要因を取り除けていない場合っていうのがあるんですね。

阻害要因というのは、コーヒーの味の邪魔をするもの、というような捉え方でいいですか?

そうです。
どんなに良い豆でも、雑味ってあるんですよ。
お肉でも魚でもいいのですが、脱水するって聞いたことありますか?

いえ、ないです

加熱するということは脱水する行為、つまり水を抜くわけです。

なぜ水を抜くかと言うと、水には水分を保つのに良い水と、腐敗をさせる悪い水の2種類があります。
悪い方の水をとにかく抜くために、脱水をかけるんです。

で、もう1個の阻害要因を作ってしまう原因は、オーバーロースト。
要するにコーヒーの素材の中に苦さってないんですよ。
あるとすれば、カフェインです。
1杯に含まれるカフェイン量で人が苦さを感じるのは、実は無理なんです。

そうなんですね!カフェインがあるから苦いと思っていました!

ですので、苦さの要因はローストしかないんです。

※ダークローストとかですと、自分が意図したローストレベルまで持っていき、どこで着地させるのかを計算してあるので、自分の商品としての提案としてオッケーなんです。

※ダークロースト:重めのどっしりとした苦めの味が特徴のロースト

しかしオーバーローストした味、自分が作った味を素材に与えてしまうことは、自分の仕事としては失敗なんですよね。
要するに、生産環境が作った味を阻害要因がなるべくない状態でお客様に提供することが仕事なので、オーバーローストというのは失敗なんです。

これに関しては、焙煎機の火力だったり、排気のコントロールだったりを自分で改造することで調節していける部分ですので、さらにコーヒーの味を追求できると思っています。

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